3月5日は二十四節気の一つ『啓蟄(けいちつ)』でした。
啓蟄(けいちつ)の啓(けい)は「開く、解放する」、
蟄(ちつ)は「土中で冬ごもりしている虫」の意味で、
大地が徐々に暖まり冬眠していた虫が、春の訪れを感じて目覚め、穴からはい出て活動を始める頃を意味します。
虫だけではなく、土の中で息をひそめていた植物も次々に芽を出し始めます。
自然界の動植物と同じように、人間の体も冬の寒さで縮こまっていたのが、
春の陽の気が高まるにつれ新陳代謝が活発になっていきます。
東洋医学では、春は五臓でいう「肝(かん)」と密接に関連した季節です。
「肝」は血の貯蔵や調節機能の他に、自律神経系の働きを担っているため、
影響を受けて精神的にイライラしたり、落ち込んだりしやすくなり、めまいやのぼせといった症状が起こりやすくなります。
また、春は「春一番」に代表される風の強い時期であり、
自然界の邪気「風邪(ふうじゃ)」が原因で病気を引き起こしやすい季節です。
風は陽の邪気で上に上がりやすく、人体の上部(頭部や顔面など)に症状が出ることが多く、
風にのって飛んでくる花粉が体に侵入することで起こる花粉症も「風邪」の1つです。
花粉症のしくみとタイプ
花粉症の代表的な症状であるくしゃみ、鼻水、鼻づまりは、外部からの影響を防衛する体の力である「衛気(えき)」の低下によって体に侵入した外因(花粉)が、「痰湿(たんしつ)」と結びついて起こると考えられます。
痰湿とは水毒とも言われ、体の中の余分な水分の滞りのことを言います。
漢方薬による治療ではこの痰湿を取り除く効果のある生薬が中心となった処方がよく使われます。
花粉症には「小青竜湯」という漢方エキス剤が有名ですが、
「小青竜湯」は色のない水っぽい鼻水や鼻づまり、くしゃみなどに効果的で、からだを温めて冷えを取り、体に溜まった余分な水分を取り除く効果があります。
舌の色が白っぽくて舌苔も白い、冷えの強いタイプに適した処方です。
一方、黄色味がかった色の濃い鼻水、強い鼻づまり、目の充血やかゆみ、口の乾燥感などが主たる症状で、舌の色も赤くて、熱のこもったタイプの人には「小青竜湯」ではなく、
「荊芥連翹湯」や「辛夷清肺湯」などが適しています。
「荊芥連翹湯」は痰湿を取り除くと共に、体を潤しながら熱を冷まし、炎症を鎮める効果があります。
また、「辛夷清肺湯」は鼻づまりやこもった熱を取り除く効果のある生薬が多く配合されています。
過労や寝不足、ストレス等で衛気が低下している人や、もともと体の抵抗力の弱い「気虚(ききょ)」の人では風邪が侵入しやすく、花粉症の症状も強く出やすくなるので、胃腸の働きを高めて体の内側から衛気を補う「補中益気湯」などを用いて防御力を高めることも効果的です。
この季節、溜めてしまいがちなストレスは早めに発散し、しじみや菜の花、春菊など旬のものを食べて肝を養い、深呼吸やストレッチなどで気の流れを良くして、伸びやかな気分で春を過ごしましょう。
薬剤師 近藤尚美