女性の下肢浮腫と漢方
この患者さんは昔からの下肢浮腫の悩みが、最近とくに酷くなったとの事で来局されました。
コレステロール・中性脂肪も下げて欲しいとの事でした。
事前問診表には多食傾向・便秘がち・などの記載があり、病歴に卵巣嚢腫などがありました。
これはいつものパターンと思い、舌など観察しながら問診を重ねて行くと。
やはりいつものパターンの方でした。
舌を観察すると、硬さ脹り具合が、苔の厚さが、苔の粘り気から乾燥傾向にあり、
長年の食事の不摂生が重なり、良い物悪い物が消化管に蓄積している事を物語っております。
舌先に充血も強く出ており、舌の苔の形状と張り強度が舌裏の静脈怒張の張り出しと一致し、この方のエネルギーの強さを表現しています。
やはり月経では血塊がありイライラ・月経時の腰痛も辛いとの事で、またまた、いつものパターンと納得のいくものでした。
なぜ長年の食べ物の不摂生と下肢の浮腫みや月経が関係して来るのでしょう?
食事と運動の比率が食事>運動になってしまっているので、食べた物の良い物も吸収されなければ、悪い物となり、吸収されない悪い物と一緒に消化管内に溜まって行きます。
この小腸・大腸に溜まった物は熱を生じ場合もあります。その熱は消化管内の粘液を乾かし便秘が酷くなって行きます。
この消化管に蓄積した要らない物は、腸管からリンパ管を経て静脈へ行く流れや、小腸から門脈を経て、肝臓への流れなどを悪くします。
浮腫みに関しての説明は呼吸や、門脈系など広がりすぎると分かりずらいので、
これらのお話は一言では説明出来ない、複雑な多岐に渡る経路が連鎖し、食事や月経や浮腫みなどの色々な症状と関係して行くのですが、まずは分かりやすい様に腸管からリンパ管を経て静脈に行く流れだけに注目して説明したいと思います。
まずは台所の三角コーナーを想像してみて下さい。ここにヌメリが溜まると流れが悪くなり、水が溜ります。
この腸管→リンパ管→静脈の通路で
腸管→リンパ管の通路にヌメリがあると、リンパ管と静脈の流れが悪くなりますし、
リンパ管→静脈の通路にヌメリがあると静脈の流れが悪くなります。
→の部分の通路に問題があるのか、流れる物質に問題があるかによっても考え方が変わって来るのですが、
簡略的に説明してしまうと、リンパ管由来の浮腫み、リンパ管と静脈の浮腫み、静脈の浮腫みと、色々な比率になる事が分かります。
この比率は血液内のヘモグロビンと総蛋白の日内変動を調べたり、
例えば顔は全身に比べて毛細血管が多いので、午後になっても顔が浮腫む方は静脈の浮腫みの比率が多いと言う事も言えますし、
このタイプの方が比較的に多いのですが、午後になると足が浮腫むと言う方はリンパ管の浮腫みの比率が多いと言う事も言えます。
これらの違いは舌を日々研究したうえで念入りに観察し、
舌の苔が表すリンパ管領域の特徴と変化、舌の体が表す血液領域の特徴と変化、これらの比率により、ある程度までは想像する事が出来ます。
また、食べ物と月経の関係について部分的に簡略的に説明してしまいますと、
上の説明の流れで静脈経路や門脈経路の流れが悪くなっており、月経に影響されやすい、骨盤内静脈の流れが悪くなり、
血塊ができたり、ドロドロになったりと、血流循環の不調から月経困難症や、月経周期と女性ホルモンや自律神経のお話に波及して行きます。
この様な流れで食べ物の不摂生から浮腫みや月経の問題が関係して来ます。
この患者さんは月経の問題よりも酷い浮腫みを何とかして欲しいと言う事でした。
浮腫みと言えば五苓散が有名ですが、五苓散を飲んでも浮腫みは取れますが、比較的に浅い所にある液体を尿から汗から出すだけで、今現在の、この患者さんのケースに対して使っても、ある程度までしか浮腫みは良くならないと言う事になります。
(この患者さんにも今後、五苓散だけで改善される浮腫みが起こる可能性はあります。
他の患者さんで五苓散だけでとれる浮腫みのケースもあります。
五苓散がある程度までしか浮腫みが取れない薬と言う事ではないです。
五苓散だけで浮腫みが取れるケースなのかは、
その人の、その時、の舌の状況と、問診情報を重ねて、やっとわかってくるのです。)
例えば五苓散の中には猪苓・沢瀉・白朮・茯苓・桂枝と言う事ですが、
舌の苔が汚れているので、利水剤の中でも汚れた水を取る猪苓を入れるべきか、
比較的に綺麗な水の偏在を、より正しくする茯苓を入れるべきか、
などなど舌を観察して、その時のその患者さんの状況にすり合わせて行きます。
これらの利水剤は補佐的に入れて、
メインの生薬は消化管に詰まったヌメリを取る生薬になります。
小腸・大腸の何処に溜まっているのか、小腸でも上部なのか下部なのか、
舌の苔はやや固まって来て、小腸下部のヌメリを取る檳榔子を入れようか、
苔が乾き棘の様になり黄色く熱を持ってきてるので、小腸上部に働き水を引っ張って来る芒硝を入れようか、
ヌメリは腸管の深い所まで侵食して来ているので血の領域のより深い所までの水を取る腸癰湯に使われている生薬を足そうか、
血の中の気の結ぼれを破る三棱を使うべきか、
気の停滞による血の結ぼれを破る莪朮を入れるべきか、
などなど比率も含めて考えに考えて、
舌の状況と問診情報を重ねながら、組み立てて行きます。
2週間服用後、
便が良く出るようになり、浮腫みも10→3となりました。
舌の状況は苔の厚みが若干薄くなったくらいで硬さも充血・怒張の強みも変化ないの物でした。
体感的には浮腫みが改善して、便が出だしたと言う事は熱が抜けて来ているので、
処方の原型はとどめて、水を動かす生薬を減らして、血を動かす生薬を増やしました。
更に2週間後
月経痛が殆どなくなり、血槐もなくなったと言う事で、
大まかに、舌の状況は軟らかくなり、赤みも薄れて来ましたが、舌裏の怒張などは変わらずでした。
更に調整・継続を重ねました。
浮腫みに関しては10→3→2→3→1→3→2とゼロにはなりませんが、
月経前症候群・月経時の不調はともに、ほぼない状態が続いておられます。
コレステロール値や中性脂肪はある程度まで、からは下がらずに、
運動と食事状況の改善を頑張っておられます。