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卵巣癌と漢方

卵巣癌の考察

卵巣癌は古典では癥瘕(女性に生じれば癥瘕・男性に生じれば痃癖という)や腸覃などの用語が出て来ますが、

古典や解説書を調べて考察してみたいと思います。

腸覃は黄帝内経霊枢・水脹篇に記載されており、

(・・・・腸覃は、やはり腹がはれる病ですが、前のと少し異なります。寒気が腸の外にとどまりまして、寒気が衛気と衝突しますと衛気の巡行がさまたげられ、血も気もめぐらなくなって、その結果、腹の病となって血気が内部に停滞します。そうするとそれが原因となってまた血気のめぐりが阻害され、このよううに悪循環をくりかえしてとうとう肉の塊が発生します。それでも初期はまだ鶏卵ぐらいですが、時がたつに従ってだんだんと大きくなり、ついには子をはらんだようになります。これはなかなか治らずに、久しい者は数年もこのような状態が続きます。腹をおさえると堅くて、横におさえると移動します。また月経に異常がないのも特徴です。)

また張景岳全書・婦人規には

(瘀血流滞によって癥積となる。その病証は婦人だけのものであり、月経期あるいは産後に、生ものや冷たいものの過食、あるいは風寒の感受、あるいは喜怒によって肝を損傷し、気逆などで血瘀を起こす。あるいは憂思によって脾が損傷し、気虚から血滞となる。あるいは過労・房労を重ね、さらに気弱となって血行の推動無力となる。通常月経がまだ終わっていない時にいったん気血の運行に影響する原因があると気血の留滞が発生し、それが重なると徐々に癥瘕となる)

などの説明があり寒凝血瘀や気滞血瘀や気虚血瘀、これらの複合的な物を想像します。

また金匱要略には

(瘧を病むは月の1日に発し当に15日を以て愈ゆべし。もし差えざれば当に月尽きて解すべし。もしそれ差えざれば当に何と云うげきか。師いわくこれ結びて癥瘕をなし、名ずけて瘧母という。急ぎこれを治せ、鼈甲煎丸に宜し。)

温病条弁・湿温・下焦篇

(瘧久しく解せず脇下に塊を成すには、これを瘧母と謂う、鼈甲煎丸これを主る。)

などの条文があり、鼈甲煎丸の条文では瘧疾長期にわたると陽気を衰弱させ濁陰が停積し、痰濁・血瘀が生じて癥瘕を形成する。

少陽胆経から厥陰肝経・少陽三焦経から厥陰心包経、経から絡への阻滞が癥瘕を形成し、少陽・厥陰の経絡の走行部位である脇下に停留して瘧母を呈するまでを説明している。

温病条弁・上焦篇には

(燥気下焦に延入し血分に搏ちて癥を成す者は男婦を論ずることなく化癥回生丹(鼈甲煎丸合回生丹加減)これを主る。)

とあり燥邪が長期に及んで水不涵木で腎陰虚から肝陰虚へ波及して行くなかで下焦に内陷する過程で衝任へと波及し経脈から絡脈へと阻滞され化燥して化結し癥を成すと説明している。

葉天士解本草の鼈甲を調べて見ると、

(気平、味鹹、無毒、主心腹癥瘕、堅積寒熱、去痞疾息肉、陰触痔核悪肉)

とあり、鼈甲の甘味で潤しながら軟堅散結で経絡に詰まった悪肉、こういう物によって硬くなった腹の中の癥瘕を軟らかくして行く事が書いてある。

中医臨床診治の卵巣癌に使われる処方を見てみると鼈甲が良く使われおり、卵巣癌の患者さんで脇下痞硬を伴う臨床を見ると納得させられる部分があります。

また癥瘕は女科証治準縄に

(古方には五積・六聚・七癥・八瘕の名があり。五臓の気積を名ずけて積と言い、積に5つあり。府の気聚を名ずけて聚と言い、聚に6つあり。瘕とは仮なり。物をかりて形をなす。)

婦人大全良方には

(痃癖・諸気・疝瘕・八瘕・腹中瘀血・癥痞・食瘕・血瘕を分ける。凡て七門。痃とは腹内にあり、臍の左右に近く各一条の筋脈の急痛するものがある。大きいものは肘のごとく、次なるものは指のごとく、気によってなり弦の状のごとし。よって名ずけて痃という。瘕とは両助の間にあって時として痛むことあり、名ずけて瘕と言う。疝とは痛なり。瘕とか仮なり。その結聚は浮仮にして痛は推移して動く。八瘕とは黄瘕・青瘕・燥瘕・血瘕・脂瘕・狐瘕・蛇瘕・鼈瘕なり。積が腹内あるいは脹胃の間にあり、臓気と結搏するときは堅牢なり、これを推すといえども移らず、名ずけて癥と言う。その病形の徴験すべきを言うなり。気が壅塞するを痞となる、その気の痞塞して宣暢せざるを言うなり。傷食のため塊をなして堅くして移らざるを名ずけて食癥と言う。瘀血が塊をなし堅くして移らざるを血癥と言う。もしそれ腹中の瘀血はすなわち積もって、しかも未だ堅からず、未だ塊をなすに至らざるものなり。大抵はこれを推して動かざるを以て癥となし、之を推して動くを瘕となすなり。かの疝と痃癖とに至っては、すなわちともに痛む。ともに痛むときはすなわち現れ、痛まざる時はすなわち、隠れて臍の左右にあるを痃となし、両助の間にあるを癖となす。少腹にあって腰脇に牽引するを疝となす。)

と説明があるが、ここで傷食のため塊をなして堅くして移らざるを名ずけて食癥と言う。とあり、食滞・宿食・食痰から形成される事が記載されおり、1200年代の南京でも現代と同じく食と婦人科の問題点があった事を連想させます。

婦人の腫物にも使われる漢方方剤を見てみると、

(子宮筋腫・子宮癌・卵管炎・卵管妊娠・子宮周囲炎・骨盤腹膜炎・卵巣嚢腫・卵巣胎児腫など)

穿山甲散・蓬莪茂丸・丁香丸・磠砂丸・調栄湯・乾漆散・当帰散・巴豆丸・葱白散・麝香丸・香稜丸・桃仁煎・三棱煎・桃仁散・大黄煎・蹯葱散・稜茂湯・紅丸子・阿魏丸など。

処方内容は行気活血・祛痰行水・軟堅散結の生薬が主に組み合わさっております。

活血化瘀:桃仁・大黄・䗪虫・蠐螬・虻虫・水蛭・三棱・莪朮・乾漆・赤硝・牛膝・赤芍・川芎など

祛痰利湿:茯苓・沢瀉・半夏・射干・葶藶子・防已など

疏暢気機:枳穀・木香・厚朴・檳榔子・麝香・杏仁など

軟堅散結:鼈甲・竜葵・白英など

金匱要略の婦人雑病脉証には

(婦人の少腹満ちて、敦状のごとく、小便微かに難くして、渇せず、生後の者は、これ水と血を俱に結んで血室に在るとなすなり。大黄甘遂湯にこれを主る。)

とあり、産後や病後の婦人など言われているが、婦人の少腹満は水と血が血室に結したためであり、大黄甘遂湯主之とあり、下血の大黄と逐水の甘遂に補虚の阿膠の処方構成を見ると、桂枝茯苓丸に活血薬に茯苓が配合されている事も納得が行き、婦人の腫物に活血化瘀薬や祛痰利湿薬が多く使われている事もうなずけます。

また医学統旨には

(気は無形ゆえに塊を成さず然して痰と食積死血は多く気聚るによりて成る、これ気は塊をなさざるといえども、塊をなすゆえんは実は気による、ゆえに治積の方は行気をもって主となす)

とあり理気薬が加わっている理由を説明しています。

昔は現在と変わらず宮中ではストレス社会であったと想像しますが、中国の冬の寒さに耐えうる防寒具や設備などが現代よりは劣るのもあり、現代よりも気滞血瘀や気虚血瘀や寒凝血瘀による癥瘕が多かったのではないかと想像します。

その中で選奇方の三棱煎:三棱・莪朮・青橘皮・半夏・麦芽

証治準縄方の葱白散:川芎・当帰・枳穀・厚朴・桂心・乾姜・芍薬・麝香・青皮・苦楝子・木香・熟地黄・麦芽・三棱・莪朮・茯苓・神麴・人参

麦芽や神麴などの消導薬が使われています、消導薬としては金元四大家の一人の朱丹渓の越麴丸や保和丸は有名ですが、清代の張鍚純の医学衷中参西録でも癥瘕に対して理衝湯に生鶏内金・三棱・莪朮が、化瘀通経散に生鶏内金・山査子が使われているなど癥瘕に対して作られた処方に消導薬が使われています。

中国でも豊な時代であったり、南部や東海側であったり、現代の日本と同じで寒気や乾気よりも湿気の影響を受けやすく、宿食・宿痰(栄養過多)由来の癥瘕を治療する方剤が使われる様になったのではと想像します。また内経・霊枢の五味篇に(穀ははじめ胃に入り、その精微なるは、まず胃の両焦に出で以て五臓に漑ぐ)といい清微とは津液血液を言い。また内経には(中焦は気を受け、汁を取り変化して赤としてこれを血となす)とあり、血は腸から生成されるが、その源は胃に由来し、その人に病があると胃中で生成された清微が凝滞して痰や経絡の瘀血になると考えられます。

金匱要略の五臓積聚病脉証にも

(問うていわく。病に積有り、聚有り、穀気有りとは、何の謂ぞや。師いわく。積は臓病なり、終に移らず。聚は、臓病なり、発作に時有り、展転として痛み移る、治す可しと為す。穀気は脇下痛む。これを按ずれば則ち愈え、復発するを穀気と為す。)

とあり、飲食が脾胃を犯し肝経を鬱結して脇下痛が生じ、穀気(食積)が積聚(腫塊)を生じるので、食積を消去するために消導薬が必要である事を説明している。

今現在の日本の卵巣脳腫や卵巣癌だけではなく、癥瘕積聚の疾患に関わらず、全ての疾患に言える事ですが、

運動不足・栄養過多(欧米食)・食事時間と寝る時間までの時間が早い、などから宿食・食痰を溜め込み

痰滞宿食となって腹腔空間の三焦膜原に吸着阻滞して、少陽三焦から厥陰心包へ、小腸から心へ、経から絡へ、

衝任脈に陥入して問題が生じた症例が多岐に渡ります。

また中医臨床診治の卵巣癌に使われる処方を見てみると大きく4つの分類が記載されてました。

1気血瘀滞に 行気活血・軟堅消癥 蓬莪朮丸加減

2痰湿凝聚に 健脾利湿・化痰軟堅 蒼附導痰丸加小三棱煎湯加減

3湿熱郁毒に 清熱利湿・解毒散結 除湿解毒湯加減

4気血虚于に 朴気養血・滋朴肝腎 参茸工生丸加減

実際の臨床では4つには分類できませんが、食事の問題から派生した2の痰湿凝聚や3の湿熱郁毒や複合型が多く、ここから絡脈に内陥し痰瘀互結型や湿絡内陥型に寒熱の隔たりが混在している様な形の患者さんが多いように感じます。

癌に使われる処方を勉強すると、

免疫力の向上に人参・冬虫夏草などの補剤

癌細胞を叩く白花蛇舌草・山慈姑・半枝蓮などの清熱解毒剤

化瘀散血に田七・三棱・莪朮などの活血剤

主にこれらの配合比率を考えて作られています。

張景岳は消癥化積の諸方剤は用薬が峻猛であるから、攻補の急緩の加減の重要性を説明しており、

短期間の使用にとどめ長期間用いては正気の衰弱に注意して、加味増減や交替に使用するのが良いとしており、

また癌毒の強度や位置・深さ・転移性・活動期にあるのか伏毒しているのかや、また手術・放射線・抗がん剤などの祛邪手段は人体正気の損傷と余邪未尽から正虚による抑邪扶正で再燃を防ぐ事なども考慮して方剤を考えなければいけません。

薬剤師 渡邉太郎